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「ダンス・ダンス・ダンス」

講談社





<DATA


1989年刊行、村上春樹39歳のときの作品である。昔から引越し好きの村上は、

「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の刊行以後、

ローマやギリシャに滞在したり、イタリアのシシリーに移ったり、日本を離れることが多かった。


特に「ノルウェイの森」での爆発的なヒットは、有形無形のプレッシャーを村上に与えることになった。

心ないファンに嫌な目に合わされたり、大学の教授や新聞に批判されたりした。

「詐欺まがいの文学だ」とか、「精神的に病んでいる」とかひどい揶揄もあってか「ノルウェイの森」で登りつめた流行作家の地位は

村上にとって精神的につらいものであり、厳しい時期でもあった。









この作品「ダンス・ダンス・ダンス」「羊をめぐる冒険」の続編であり、素晴らしい完成度となっている。


もっとも”村上春樹らしい”作品であり、その構成力とストーリーラインは長編でも随一を誇る。


流行作家という地位の苦悩を乗り越えた精神的な遍歴が、文体やストーリーをより厚くしている。


肉体的な作業をするには肉体を磨かなくてはならない。

また、精神的な仕事をするものはその精神を磨かなくてはならない。


見事に研ぎ澄まされた精神の屈強さが、類稀なる才能が、この作品には集約されている。


ぼくはもう「ダンス・ダンス・ダンス」的なものを今後書くことはない、と村上が言っているように、


この作品はひとつの到達だったのだろう。そういう意味では、村上文学の区切りともなっている。









<感想


本格的にメタファー(隠喩)に凝り出したのは、この作品からではないだろうか。


セリフひとつで読者にぐいぐい迫ってしまう語彙センスは素晴らしい。


「我々は人間について話をしているんだよ。等比数列の話をしているんじゃない」


などセリフや語りの文章を絶妙の比喩で立体化し、ぐいぐい読まされてしまう。


また場面の転換が鮮やかで、北海道から渋谷の雑踏、ホノルルのダウンタウンまで、


巧みに書き出している。







キャラクター的に好きな人は五反田くん。映画スター。だけど、仕立て上げられた映画スターで、


その鮮やかな仮面の内側では自由を奪われ、

周りに”映画スターであることを求められる”苦悩に満ちていて、
自分の人生なのに、他人に操作されているという事実から目をそらして生きていた。


彼は物語では脇役なのだが、そういう疑問って誰もが持っていると思う。


仕立て上げられた生活、仕立て上げられた現実。周りの求めによって、捻じ曲げられている自己。


優雅な映画スターの孤独な側面が、物悲しくも僕たちにも底の方で通じてしまう。


本筋のストーリーとは離れてしまうのだが、ぼくはこのキャラクターがあるいはストーリーより好きなのかもしれない。







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