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After Dark






巻き上がった興奮や感動、歓喜、哀しみがゆっくりと静まり返っていく。

多くの観客がゲートの外側へ流れていく。代々木の最終公演。
熱気と興奮に包まれた人々に囲まれていたはずなのに、
いつの間にかそれはまばらになり、しばらくすると夜の深さがやけに目立つようになった。





ユニオンジャックを振り回し、言葉を交わし、握手をして、肩を抱き合う。
シャッターを何度も切った。記念撮影が幾度となく続いた。



見渡すと辺りは静かなものだった。ところどころで常夜灯が青白い光を投げている。
冷たい風がどこかに向かって時折音をはさみながら吹き過ぎていく。





終わったんだ。
ぼくは急速に日常に引き戻されていく自分の姿を他人の目で眺めていた。
そして、仲間と原宿へ向かって足を進めた。



昨夜のOASIS NIGHTで喉がおかしい。他人の声のようだ。身体もずいぶん疲れている。
このツアーのあいだ、ろくに眠ることもできず、仲間たちと夜中じゅう騒ぎ倒していたからだろう。
ただ、気持ちは輝いていた。




竹下通りを突っ切ったところの居酒屋にぼくらは入った。
海の幸が豊富な、少し値段の張るところだった。
ぼくの左隣は、九州から飛行機で飛んできたまりこさん。右隣は、hiroさん。
テーブルの左からよしだくん、いがらしくん、やぎくん・・・・・・。生ビールで乾杯をして、
テーブルは矢継ぎ早に感情のこもった言葉で溢れかえる。



注意深く仕切りの向こう側に耳を向けると、どうやら隣もオアシスファンのようだ。
彼らも何かしら熱心に、そして興奮気味に話をしている。
それはぼくたちとしても同じだった。




いがらしくんはもう2日も自宅に帰っていない。その間ずっと熱狂の渦に飲まれていた。
よしだくんだって、身を削ってツアーに参加している。ぼくも何だかとても疲れていた。
hiroさんは仕事を休み、まりこさんは九州から直線的に飛行機に乗って、今、この場所に居る。
そして、やぎくんはとてもまっすぐな瞳でオアシスを熱く語る。




それぞれ思い切った行動をし、情熱を傾けた結果、この居酒屋に座ってる。
よくよく考えてみたら、生で音楽を聴くというだけ。それだけだ。
ステージの向こう側にはリアムがいて、ノエルがギターを弾き、アンディーとゲムがいる。
それはとてもよく分かる。本人が目の前にいて、憧れが演奏を始めるのだから。


だけど、一般人の理解を超えたところにぼくたちはいるような気がした。
何だって、ここまでするのだろうか。




オアシスが好きなのは分かる。理解できる。何かを好きになるのは、素晴らしいことだ。
しかし、やり過ぎじゃないだろうか・・・・・・。



きっと、他人は首をかしげるのかもしれない。ぼくもそれは否定しない。
まともではないことは確かなのだ。
ぼくは目の前に輝かしく映っている彼らの熱のこもった表情を見た。
すがすがしい笑顔と、生々しい疲労感。
混じりっけなしの感情だけがその場で効力を持っていた。




「やぎく〜ん、飲み比べしよっか?」と、ぼくは笑って話しかける。
「いいっすね」と彼は軽く言葉を切り、「ウイスキーとかどうですか?」
「いいね」とぼくは言う。シーヴァスリガールを2つ注文する。ロックで。
お酒の弱いいがらしくんは、顔を赤くしている。料理が次々と運ばれてくる。
そして、次から次へと皿は空いていく。
グラスは隅のほうに並べられ、時計は進み、言葉は更に熱を帯び、夜は深まっていく。



12時過ぎに、ホテルに戻るhiroさんと別れを告げる。ぼくらは、話し合いの末に六本木に向かう。
タクシーを停め、六本木の交差点に向かってもらう。タクシーは、丁寧にぼくらを運んでいく。





「六本木にオアシスが居るかもしれないなあ」とぼくは言う。「この辺は外人バーも多いし」
やぎくんの目は強さを増し、いがらしくんと彼はあきらかに足取りが速くなっていた。
ユニオンジャックやマジックを持って、彼らは夜の六本木を歩く。
後ろに居たぼくらと、知らないうちに距離が空いてしまって、途中でぼくは慌てる。

いくら距離を詰めようとしても、彼らの足取りにはかなわない。
ぼくは軽く笑う。面白いなあと思う。









結局、六本木に行っても、どこへ行って良いのか分からなかった。外人ばかりだった。
黒人が鋭い目で、道路の向こう側をじっと見つめていた。白人がファーストフード店の前で騒ぎ倒していた。
ぼくらは結局ハードロックカフェに入り、
店内に飾ってあるメタル系のバンドの写真やボンジョヴィのサインを眺め、JETのPVをぼんやりと見て、
少しばかりの言葉を交わし、フィッシュアンドチップスを食べた。






ハードロックカフェでは、今回のツアーのことを振り返っていた。
そう、それは夜中の2時には既に振り返るべきものとなっていた。
オアシスのツアーで、ついさっきまで、リアムが歌っていたということが、
うまく結びつかなくなっていった。彼らと僕らの時間、代々木体育館。
長い長いツアーに伴う旅は、もう終わりが告げられているのだ。ただ、ぼくらは実感として
それを抱くことが出来なかった。








「どこへ行ったら、彼らに会うことが出来ますかね?」
「明日、どうする?」
「成田だけどさあ・・・・・・」
いがらしくんとやぎくんは、真剣な表情で言葉を交わす。





結局、ふたりともこの日の徹夜がたたって、翌日は動けなかったそうだ。
カフェを出て、ぼくらはカラオケボックスに向かい、眠気に時々やられながら、オアシスを歌い、
ローゼズを歌い、ブラーを歌い、アジカンを歌った。
誰もが疲れ切っていたし、誰もがばかばかしいテンションだった。
よしだくんはタフで、最後まで元気だった。

ぼくは部屋を出て、違う部屋で寝ていたら、店員に注意されてしまい、
結局、ものすごい騒音のなかで眠った。
何とか持ち直そうとする。
だが、意識がもつれてしまって、言うことを聞こうとしない。
激しい眠気と、だるさが身体を覆っていく。




起きあがってみると、4時前ぐらいだった。よしだくんがアジカンを歌っていた。彼はサマソニ以降、
アジカンをすべて聴いたそうで、なかなか上手に歌っていた。



途切れがちだった意識は、ずいぶん回復していた。
ぼくの隣では、まりこさんがぐっすりと眠っていた。テーブルには、飲みかけの柑橘系カクテル。
乱雑に開かれているカラオケの本、タンバリン。
アジカンを聴いていると、夏の記憶がほろ苦く蘇ってくる。
それは、もう、手が届かないぐらい遠くの出来事のように思えてくる。




ぼくが最後に選曲して、歌ったものは、


「Stop Crying Your Heart Out」
「All Around The World」だった。
連日のどんちゃん騒ぎで、喉が痛く、声もすっかり変わっていたけど、しっかりと歌い切った。



「Stop Crying Your Heart Out」では、3年前の情景がありありと浮かびあがってきた。
「All Around The World」は10代の頃、一番好きだった歌だ。真夜中、記憶がその頃とシンクロし始めて、
懐かしいような寂しさが頭を覆っていった。











昔のぼくはひとりで聴いていた。
いつもひとりでこの長く壮大なオアシスの歌を、部屋のなかで誰に語ることもなく。

しかし、今では勝手にマイクをとって歌ってくれる仲間がいて、
マイクなんて無くても歌ってくれる友人に囲まれていた。






そのカラオケボックスにいた誰もが心をこめて、ぼくにとって特別な意味合いを持っている

「All Around The World」を歌ってくれる。
この長いツアーのすべての意味を物語っているような気がした。






ぼくたちは知っているようで知らない関係だ。

ぼくの本当の名前を知っている人間は、あの六本木のカラオケボックスには
いなかったように思う。

ぼくだって知らない。

彼らの家だってどこにあるのか知らないし、彼らの日常だって、参加している社会だって、普段どのようなことを考えて、
どんなふうに生きているのかだって、何一つ知らない。


だが、現実として、そのことはさして重要ではなかった。そして、必要でも無かったように思う。






ただ、ぼくが人生をかけて好きになったバンドを同じように好きでいてくれて、
想いが詰まり過ぎている大切な曲を、何も言わないで歌ってくれる人たち。



そんな彼らと過ごす時間が、最高だった。

「All Around The World」を歌いながら、そんなことを思っていた。





いがらしくんは疲れ果てて眠っている。4時半を回っていた。九州から飛んできたまりこさんは、
朝にはまた九州に戻らなくてはならなかった。5時には山手線に乗って、羽田まで行かなくていけない。
ぼくは歌い終わると、やぎくんとよしだくんに別れを告げて、彼女を送るためにカラオケボックスを出た。




本当は、いがらしくんにも声をかけたかったし、また、なかなか会うことも出来ないだろうから、
きちんとお別れをしたかったのだけど、彼はあまりにも深い眠りについていたので、声をかけることができなかった。







ぼくの気のせいかもしれないけど、その最後に別れを告げたとき、やぎくんの表情には
否応にでも覚めなくてはならない夢への寂しさが浮かんでいたように思う。


ツアーは終わったのだ。数日後には、ギャラガー兄弟はまた飛行機に乗って次の世界へ行き、
ぼくらは再び元の居場所に帰っていくことになる。




その事実はぼくらの心を後ろ向きに引っ張り込もうとする。







ぼくとまりこさんは六本木の交差点でタクシーを拾い、渋谷へ出た。車のなかでは、
ぼくらは短い言葉をいくつか交わした。

わずかの言葉の切れ端には、あまりにも多くの感情が込められていたような気がする。
そして、おそらく、それは言葉では収めようのない種類のものだ。


JRの渋谷駅は、既に電車が動いていた。
夜明け前に冷たく光り輝く駅の構内で、まばらな人々が改札口を行き来している。


やがて時間が来てまりこさんが、改札の向こう側に姿を消す。
しばらく彼女の背中を見送っていた。







時計は朝の5時を少し回ったところだ。ぼくの身体は疲れ切っていた。
身体中の何もかもが動かしにくくなっていた。



油断していると、眠気がのっそりと襲ってくる。
この長いツアーが終わって、感動も歓喜も通り過ぎていった。






ぼくはジョージアの缶コーヒーを買う。

寂しさも、感動も、何も浮かんでは来なかった。

不思議な達成感だけが疲労とともに残っていた。



「Stop Crying Your Heart Out」






しばらく、ぼくはこの曲を聴いていなかったことを思い出した。








最後に聴いたのは、いつのことだっただろう?



大阪に戻って、ぼくは最初にこの曲を聴いた。すぐに耳に馴染んでくる。リアムのまっすぐで直情的な歌声。


かすかな震え。呼吸。カラオケボックスの部屋の湿った空気。

思い出す記憶は温かく、それを手に取って眺めることができるぐらいだった。














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