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Nagoya GaishiHole 20090318





長く揺られて来た車から降り立つと、コンクリートの地面の硬さがつま先から伝わった。
先ほどまで燦々と輝いていた太陽は夕暮れに差し掛かっていた。
会場近くの広い駐車場にはたくさんの車が停まっている。
ほとんどがオアシスを観に来ているファンたちのものだろう。とうとうライブに来たんだと実感する。
しかし、未だ分からない。うまく頭がついていかない感もある。



ここまで連れ添った仲間たちと長い遊歩道を歩く。しばらくすると円形の大きな建物に出会った。
ガイシホールだ。
遠くにあるその建物にずんずん近寄っていくうちに、
別の何かが自分の過去から現在に近づいて来ているのが分かった。


2002年の時にも僕はここに来てオアシスのライブを観たし、数々の彼らのライブに参戦している。
云わば身体に染み込んでいるかのごとく。
だが2005年ツアーから3年半の空白というのは、
僕に色々なものを忘れさせるには十分な時間だった。



さて、オアシスのライブっていったいどんなものだっただろう? 
頭の隅っこでは必死に思い出そうとしていた。


でも、それはいつの間にかうまく思い出すことが出来なくなっていた。
まるで握力を失った手で、何かを掴もうとするみたいに。
どんな手触りで、どんな気持ちになるのだろう。
すっかり忘れてしまっている。



会場の近くでは、思ったより多くのファンが立ち話をしたり座り込んだりしていた。
ざわめきと喧噪が鼓膜にまでノイズのように響いてくる。
乾いた風が時々強く吹きつけて過ぎ去っていく。
イベントを運営している今となっては知り合いが多くいた。しばらく会っていないファンと語り合ったり
物販コーナーに並んでグッズを物色しているうちにオアシスまでの時間が確実に迫ってくる。


夕暮れは緩やかに夜に向かい、僕たちの目に映る色彩を次第に暗く落していった。

開場時間になっても、僕たちは入場しなかった。思い思いの話を会場外で楽しんでいた。

初めて出会った人も中にはいて、「二日前から寝てませんよ!!」なんてセリフに笑みを浮かべて言い放つ。

「俺も」、「僕も」とみんなが答え始める。自然と笑みが零れる。
そうだったよな、ライブ前は確かにいつもうまく眠れなかったな。



前座のバンドが始まる時間となった。
ライブが終わったらまたここで会おうと告げて各々が会場に入っていった。



ガイシホール。旧名称レインボーホールは、穏やかだった。インテックスや幕張メッセに比べると
小さな会場で、前者はオールスタンディングなのに対して、座席指定でのライブだった。
名古屋は前のツアーでも東京や大阪に比べると、ファンはおとなしかった印象がある。
今夜も落ち着いているように思えた。

友人に譲ってもらった席は23列目。ステージからは遠いのか近いのかよく分からない距離。
僕はゆっくりと腰をおろして座ってみる。座るのに飽きると立ち上がって、知り合いのファンのところへ行って話をする。



やがて前座のバンドが始まり、音が大きく反響していることが肌に伝わってくると
石のように眠っていた興奮が底から巻きあがってくる。



オアシス。照明が一斉に落ちて、「This Is Not The Drill」に始まり、
「Fuck'in In The Bushes」に繋がっていく。
青白い光が黄色の光線に交錯し、派手な音響が鳴り続ける。
ステージ上にメンバーが登場し、ゆったりとした動作で其々の位置につく
「Fuck'in In The Bushes」の音が途切れ、次の瞬間にやって来た曲は「Rock'n Roll Star」。
リアムがマイクスタンドに近寄って、
歌詞が彼の声にのって僕に耳に届き始める。
彼らの演奏している姿を目で追っていく。
リアムがいる。
ノエル。
ゲムがいてアンディーがいる。
僕はステージ上を見つめ続けている。
合唱に参加する。
だが、しばらくすると
彼らの姿をうまく追えなくなってきていることに気づく。
視界がずんずん遮られていく。



僕は大粒の涙を流し続けていた。
拭っても拭っても、次から次へと溢れてくる涙だった。

何故、こんなに泣いているのだろう?


3年半ぶりのライブで嬉しかったのか。
リアムやノエルの姿を観ることが感激に繋がったのか。
あるいは、「Rock'n Roll Star」という曲がそうさせるのだろうか。

いずれも理由にするには、正確性を欠いているように思う。



2曲目の「Lyla」では、サマーソニックの野外ライブの光景が重なり合い、
3曲目の「The Shock Of The Ligntning」で、感情が激しく込み上げてきて再び涙が目の上を覆う。



数々の名曲を生演奏で聴いてみたい。彼らの姿を直接観てみたい。
9年前最初に僕がオアシスのライブに行ったきっかけはそんなところだった。

今はもう理由らしきものが形を留めていない。
オアシスだからライブに参加し、オアシスだから感動するのだ。


彼らのシンプルかつ威力のあるメッセージソングも大して意味を持たない歌も、
十年以上繰り返して聴いたあの曲も出来あがったばかりの新しい曲も
二時間弱のステージにすべてが圧縮されて僕らに向かって飛び込んでくる。



「Slide Away」と「Morinig Glory」では、フジロックのあの夜が蘇ってくる。
暗がりの風景に冷たい風がまだ感触として残っている。
反射的に身体が熱くなった。


ガイシホールの反響は良く、低音も高音も鮮やかに身体に届く。
アンコールでは「Don't Look Back In Anger」、「Champagne Supernova」。
「I Am The Walrus」がラストソング。
眩い光を束ねるステージの上ではメンバーが其々の仕事を行っている。


リアム・ギャラガーは歌い終わる。
ジャムセッションが余韻を引きずるように続き、最後にはギター音が途切れ
ライブが幕を閉じる。僕はすっかり落ち着いていて心が満ちている。


顔見知りのオアシスファンたちに声を掛けたり、掛けられたりしながら会場の外に出た。
身体に纏っている熱気が、冷やかな外気と交じり合って心地良かった。
辺りはすっかり暗くなっている。遠くのほうでは蝟集した闇が深い景色を留めている。


次々に集まって来る顔見知りのファンは笑っていたり、呆然としていたり、
熱くなっていたりと、彼らは幾つもの違う表情を持っていた。


僕は自動販売機に並んで冷たい缶コーヒーを買って、彼らと話をしながら飲んでいた。
「あの曲で泣いた」とか「この曲は反則だ」とかで、自分たちの真っ直ぐな気持ちを確かめ合う。

本当に真っ直ぐな感情。

オアシスのライブ。
いったい何のためにみんな行くのだろう?
僕はいつの間にかうまく説明が出来なくなっている。



3年半ぶりに手元に返って来たものを懐かしみながら、
薄暗がりに集まっていた10数人のオアシスファンと僕は時間が許す限り笑い合った。






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